それはユカリちゃんの席だった。

誰もがこの状況についていけず、声を出すことも動くこともできずにいた。



――パシンッ……!


静かな教室に、響き渡る音。


それは、ユカリちゃんがその男の子に頬を殴られた音だった。


かなり強く殴られたのがその音からわかった。

ユカリちゃんは俯いたまま動かないでいる。

そして、そんな彼女を彼は冷たい目で見下ろす。


「男ナメんのもたいがいにせーよっ!!」


吐き捨てるようにそう言うと、彼はそのまま教室を出て行った。


とたんに教室内がざわめく。

先生がユカリちゃんに声をかける。


「大丈夫か?」


ユカリちゃんは、何もなかったかのような涼しい顔をして、そのまま前を向き、それから殴られた頬を隠すように、手で頬杖をついた。


目の前で起こった出来事に興奮している生徒達のざわめきはなかなか収まらない。


「おい! 授業続けるぞ! 静かにしなさい!」


先生のその言葉に、また授業が再開した。


長い髪と頬杖に隠されて、わたしの席からだと彼女の表情は読み取れない。


ユカリちゃん……大丈夫?

いったいどうして……?

あの男の子は誰?




色んなことが頭をめぐり、もう授業どころじゃなかった。