「あほか! やってへんわ!」


「やっぱし。オマエもかなりヘタレやもんな」


「……悪かったな」


「しかし、あの子はなんであんなにまっすぐなんやろうなぁ。オレ、あの子見てたら眩しいわ。どんな家庭で育ったら、あんなにまっすぐ育つかねぇ」


サトシは一人でブツブツ言いながらゴーグルを下ろすと、まだもたもたしているオレを置いて動き出した。


「じゃ。こっちの処女はオレがいただきまーす♪」


そう言って、滑り始めるとあっという間にその姿が小さくなっていった。



処女って……。

アホか。

ほんまにあいつは。


さっきまで何もなかったゲレンデには、サトシが描いたラインがくっきりと浮かび上がって見えた。

それでも太陽に映し出されたその白い世界は、穢れなく本当に美しかった。


「ちぃちゃんは雪か……」


オレはぽつりとつぶやいた。

なんやねん。

わけわからん。


オレは立ち上がって、斜面を滑り出した。

次第に加速がついて目の端に映る景色は流れ、頬を冷たい風が刺激する。


サトシがヘンなこと言うからだ……。



ゴーグルを通してでもわかる真っ白に輝く雪を見ながら、


なぜか彼女の顔がちらついてしょうがなかった。