「ごめんな……」


ヤマジ君が片手で顔を覆いながら、階段を降りてきた。


「あいつ、マジ気ぃつぇーし」


「ううん」


首を横に振った。


だって、わたしも心のどこかでホントは……。


「わたしもホントはちょっとだけユカリちゃんに腹がたっててん。カナコちゃんは、わたしが言いたかったことを代弁してくれた」


冗談っぽくそう言うと、ヤマジ君はフワリと優しい笑顔で微笑んでくれた。


うわぁ……。

この人って、ほんとキレイな顔してるなぁ……。

なんて、ヤマジ君の整った顔をマジマジと眺めてしまった。


「あんな言い方しかできないけど。あいつなりに、ちぃちゃんのこと心配してんだよ。あれでも」


「うん……。わかってる」


カナコちゃんは人一倍正義感が強い。

だから、なんとなくあいまいに済ませることが嫌いなんだ、きっと。



「オレからすれば、ユカリは不器用すぎるよ」


「え?」


ヤマジ君の意外な言葉に興味がわいた。


「誰だってさ。
『人から嫌われたくない』、『良く見られたい』って思うもんじゃない?
“良い人”って言われてるヤツだって、大抵どっかで計算してんだよ。わざわざ敵作るようなことしてさ。もっと賢くやる方法はいくらでもあんのに。ホント不器用だなって」


すごい……。

ヤマジ君て普段あまり喋らないけど。

ちゃんと見てる。

しかも冷静に。


そして、なんかスッキリしてきた。


色々あってもわたしがユカリちゃんを嫌いになれない理由。

それはきっと彼女の中にある、そんな不器用な部分をわたしも感じているからだ。



「ヤマジ君てすごいね……」


思わず無意識のうちにつぶやいてしまった。


そんなわたしの顔を覗き込むヤマジ君。


「ところで時間いいの? 急いでんじゃなかったの?」


「ぎゃ! そうやったー! 日直―!!」


あわてて叫ぶと、ヤマジ君はまた天使みたいな極上の笑顔でクスクス笑ってた。