「吸う?」


その声にハッとして顔を上げると、サトシがタバコを差し出していた。

インディアンのデザインされたその黄色いパッケージをオレはぼんやり眺めていた。

サトシがいつも吸っているそれは、彼曰くタバコ本来の味がするらしいのだけど、オレはその独特の香りや味が苦手だった。


オレは黙ったまま、その箱から一本取り出し火をつけた。


「ケホッ……!」


煙が喉にひっかかってほんの少しむせた。

やっぱりこの味はあまり好きではない。


サトシはフッと笑うと、

「お前、この味忘れんなよ」

そうポツリとつぶやいた。



忘れられるわけがなかった。

彼女をあんな風に傷つけたことを。


「あの子なぁ……。『別れても今までどおり友達でいて』ってめっちゃ明るく言うねんで……」


サトシはふーっと大きく煙を吐くとこう言った。


「ちぃちゃんらしいな……」


「うん」


胸の奥から自分でも消化できないような、どうしようもない想いが込み上げる。

オレはずるい。

彼女を傷つけておきながら、一人でいることもできずサトシに頼って、タバコ吸って気を紛らわそうとしてる。


あの子はどうしてるかな……?

今もどこかで肩を震わせて一人で泣いてるのかな……?


そんなこと考えてもどうしようもないのにな。



煙が入ったせいか、目の奥が痛くなった。


オレには涙を流す資格もないのに……。