「うわっ……。すげー風やなぁ……。外の展示物大丈夫かなぁ……」

シィ君が心配そうに空を見上げる。

まるで台風でも近づいているかのような強い風が吹いている。

雨こそ降っていないけど、空には重そうな灰色の雲が垂れ下がっていて、それがすごいスピードで流れていく。


なんだろ……この嫌な気分。


わたしは風で乱れそうになる髪を耳にかけて押さえた。


明日はいよいよ学祭だ。

放課後、美術部顧問の山田先生から頼まれた絵の具を買いに街の画材屋に行き、シィ君もそれに付き合ってくれたのだった。


買い物を終えて商店街を歩いていると

「お茶でもしたかったけど、天気悪いし、もう帰ろっか?」

シィ君がそう言ったので、わたしもそれに同意した。


シィ君の横を歩いている……


つもりだった。


背の高いシィ君とチビなわたしでは歩くスピードがかなり違う。

油断するとすぐに置いて行かれそうになるので、わたしはシィ君について行こうと一生懸命歩く。

いつもは、それに気付いて自然と歩調を合わせてくれるシィ君。


でも、今日は違った。

何か考え事でもしてるかのように、どこか一点を見据えて、スピードを落とすことなく、どんどん進んでいく。

わたしはそれでもついて行こうと必死だった。


だけど……。


急に足が止まった。



シィ君……もう、無理だよ……。