オレはあの日、前の授業で忘れてしまったペンケースを取りに理科室に行った。


教室のドアはほんの少し開いていて、誰かの話し声がそこから漏れていた。


「ユカリが……」


その言葉に反応して、ドアを開けようとしていた手が止まった。

オレは小窓から中を覗き込んだ。


教室には、女の子が3人。

ちぃちゃんが仲良くしてる、確か……アカネちゃんって子と、去年まで食堂で一緒だったユウの友達(元友達というべきか?)のアサミ。

そして、ちぃちゃんだった。


その場から動くことができず、3人の話に聞き耳をたててしまった。

話の内容は、アサミのユウへ対する恨みつらみだった。

ユウの立場になれば、また違った言い分はあるかもしれないが、彼女の言っていることもきっとウソではない。

そんな風に言われてしまう要素がユウにはあるのだから、しょうがないと言えばしょうがない。


中学の頃から、女子がユウの陰口を言っている光景を何度か見てきた。


こういう場合、大抵女っていうのは、誰か一人をターゲットにして、最終的にはみんなで同じ意見でまとまる。

「ひどい! ○○ってサイテー!」

みたいにね。


ちぃちゃんは、なんて言うだろう……。



目の前で泣いているアサミに同情して、ユウを悪く言うだろうか?

それとも、ユウに義理立てして庇うだろうか?


だけど……

彼女が口にした言葉は、そのどちらでもなかった。


アサミのことを気遣いながらも、ちゃんとユウのことを友達として見ている……

そんな言葉だった。


すごく冷静だと思った。

ちゃんと客観的に周りが見えているんだと。


キミはやっぱりしっかりしてるな。

オレなんかより、ずっと……。