「おーい! シィ! そのラッカーとってー」


「へ?」


「だから、赤のラッカー。こっちに投げてくれ」


「あ……。ああ……ごめん」


そばにあった、スプレー缶を放り投げた。

今オレは同じクラスの田中と二人で、学祭で使用するパネルを作成中だ。

シンナーの匂いがきついので外に運び出して、正門前の広場で作業をしている。


「だから! “赤”やってば!!」


「へ? あ……ごめん」


“赤”って言われてたのか。

適当に投げた缶は“黒”だったらしい……。


「おい。さっきからボケっとしてるけど、大丈夫か?」


田中が呆れ顔でこちらを見る。


言い返す言葉もない。

さっきから、まさに心ここにあらずって感じなんだから。


「うん。ごめんな」


今度こそ間違えないように色を確認してから、赤い蓋のスプレー缶を渡した。



ここんとこオレの頭には、あの会話がぐるぐると巡っていた。


この前偶然、理科室前で聞いてしまったあの会話が……。