子供の頃って、もっと単純だった。

何か一つでも気に入らないことがあれば、相手を嫌いになることができた。

だけど、今はそんなに単純じゃない。

人には、色んな面がある。

嫌な面一つ見えたぐらいで、相手の全人格を否定するなんてできない。


だって、好きなところもたくさんあるから。

人との付き合いって、結局そういうことのバランスだ。

あの子のああいう面は嫌だけど、こういうとこ、好きなんだよなぁっ……て。

そう言ってわたし達は、上手くバランスをとって誰かと付き合っている。

それは無理してるわけでも、偽善でもない。



だから、わたしは……。



「ありがとう……。二人とも、心配してくれて」


まずは二人にお礼を言った。


そしてアサミさんの自尊心を傷つけないように、慎重に言葉を選んだ。


「もしもアサミさんと同じ立場なら、わたしも同じように思ってたかもしれへん。でも、そうじゃないから。ユカリちゃんにそういう面があるとしても、すぐに嫌いになったりはできへん。……だけど、気にかけてくれて、ほんとにありがとう。辛いこと、言わせてしまってごめんね」


わたしは下を向いて泣きじゃくるアサミさんの顔を覗き込んだ。

アサミさんは、ハンカチを目にあてながらうんうんって頷いていた。



恋はやっぱりキレイなだけじゃない。

誰かが涙を流さなければいけないこともあるんだ……。



赤い糸は複雑に絡み合って、いつもいつもわたし達を悩ませる……。