シィ君の家は前に教えてもらったから、わかっている。

丘の上にあるわたしの家からシィ君の家までは緩やかな坂道がずっと続く。

自転車は勝手に加速して転がっていくので、ほとんどペダルを漕がずに済んだ。

気持ちいい――!


もう日が暮れかけていて空にはオレンジから藍色のグラデーションが広がっている。

秋を感じさせる少し肌寒い風が顔に当たって心地良かった。

今から好きな人に会いに行くわたしの火照った頬を、ちょうど冷ましてくれるようだった。


静かな住宅街を抜けていく。

どこからか今夜の献立らしいクリームシチューの香りがした。

あちこちの家に灯りがともる風景って、“幸せ”の象徴のように見える。


わたしも幸せだよね……。

今から大好きな彼に会いに行くんだもん。


シィ君の家が近づいてきた。


小さな公園の前を通る。

目の端に映ったものに一瞬ドキッとした。


公園の中には、カップルらしき男女がいて、抱き合っている最中だったから。



きゃぁ……大胆……。

あれ……うちの制服だったよねぇ。


そんなことが一瞬頭をよぎり、そして何かがひっかかった。