急な出来事にどうしたらいいかわからなくなって、彼の手から逃れようと、咄嗟にかがんでしまった。


それと、同時に手にしていたカップを床に落としてしまったのだ。


わたしの叫び声か、それともカップの音か、どちらに驚いたのかわからないけど、シィ君は指をビクンと震わせて、慌てて手をひっこめてしまった。


「プッ……。んな、避けんでもええやん。頭に糸くずついてんで」


シィ君は、笑いながらそう言った。


やっと状況を把握して、どうしようもないくらい恥ずかしくなった。

カァッって、耳まで熱くなる……。


ど……

どうしよ。


なんか、今の態度、ものすごく感じ悪かったよね。


もう顔を上げてシィ君のことを見ることもできない。

ただただ慌ててカップを拾った。


「ごめんね。ありがと」


そう言うのが精一杯だった。


シィ君達はまた窓から外に出て行ってしまった。



「ハイ」


マリちゃんが近づいてきて、髪についた糸くずを取ってくれた。

その小さな細い糸を、わたしは相変わらずの赤い顔でぼんやり眺めることしかできない。


「じゃ、そろそろ……わたしも帰るわ」


マリちゃんはそう言うとドアの方へ向かった。

取っ手に手をかけようとした瞬間、後ろを振り返る。


「ちぃちゃん。その絵、良い絵やなぁ。わたし好きやで。その真ん中の人……ベンチに座ってる人って……香椎君なん?」