彼は当たり前に、私の目の前を通り過ぎていった。


一瞬こちらを見たような気もしたけれど、もしかすると私の気のせいだったのかもしれない。


遠ざかっていく背中を、視線だけで追いかける。


新一年生にしては随分と大人びている彼の姿から、いつまでも、いつまでも、目を離せずにいた。



「あ、時間……!」


二度目のチャイムの音でようやく我にかえる。

三階の教室を目指して、再び私は駆け出した。