「お父さんは……なんて?」
「怒ってたわ」
「……」
やっぱり……。
「途中で電話を代わってね、こうするしか倫子を守れないからって。よく分からないけど、なにがあったの?」
「……」
私は答えなかった。
シュウが悪く言われるのが嫌だったから。
あんな風に電話で冷たく言われたのに、バカかもしれないけど……。
「あのね、私仕事を見付けて落ち着いたら、家を出て一人暮らしをしようと思うの」
「なんで?」
「一からやり直したいの。今までのことを全部0にして、新しい環境で」
「……分かったわ」
母親と顔を見合わせて笑うと、私は料理を食べる。
「倫子が一人暮らしをして辛いときは、いつでもご飯を食べに帰ってきたらいいのよ。ご馳走用意するから」
私はうなずいて笑った。
そのとき、玄関のチャイムの音が聞こえる。
「誰かしら?」
母親はそう言って玄関に向かう。
シュウが迎えにきてくれたらいいのに……。
婚約指輪を持って、『倫子さん迎えに来たよ』って。
そしたら私、迷わずにシュウのところに戻るのに……。
そんなこと、ある訳ないよね。
シュウは私に別れを告げ、実家にも電話を入れてたんだから……。
そう思ったとき、玄関から声が聞こえた。



