―土曜日
又母親に東京に行く口実を作って貰い、私は東京に向かう。
前回とは違う、気が重い憂鬱な思いが私の指先を冷たくした。
言わなくてもいい事なのかもしれない。
けど、この傷は消えないのだから…。
言うきっかけを探して、私は腕時計を外して、鞄の中に入れた。
そして東京駅に着いた時、改札口から見えるシュウの姿に少しホッとした。
改札を抜け、シュウの元へ小走りに駆け寄ると、シュウの手をソッと握る。
「倫子さん、手、冷たい」
「シュウの手、暖かい」
「今日はちょっとブラブラする?」
「うん。何処行こうか?」
「新宿でいい?」
シュウは悩む素振りも見せずに言う。
「じゃあ、シュウに任せようかな」
「うん」
シュウは何となく無口で、それでも私は嬉しい。
シュウの気持ちが分かってから、こんな風に出歩く事が無かったしね。
スマイル王子とか騒がれちゃって…。
あの頃の報道を思い出して少し吹き出す。
「何?」
「何でもないよ、スマイル王子様」
「……」
シュウは黙ったまま苦笑いする。



