ハ、ハ、ハ、と白い息を吐きながら、ユウナは走っていた。向かのは、夜の学校。ユウナの両親は共働きで帰り は遅く、まだ帰っていなかった。

午後八時四十五分。まだ、ミサキは来ていない。ユウナは両手をジャージのズボンのポケットに突っ込んだ。
ふと、左手に何かが当たる。ヒヤリとしていて、硬い。取り出してみると、一つのストラップだった。
月の光りで照らされたそれは、青白く光った。銀色の透かし彫りの桜に、黄緑色のストーンが四隅に飾られている。

………あぁ、ユキとナナミがくれたやつだ…。
少し前… ちょうど、二年に上がった頃にくれたお土産だ。二人でお花見に行ったって言ってたっけな。
………もらったお土産は、これで最後になってしまったのかもしれない。
ユウナは、ストラップを両手で軽く握った。お祈りする時みたいに、胸の前で手を組んで、ストラップを手の中に忍ばせる。

…どうか、生きてて。
…私は、明日もみんなに会うつもりだから。
…ユキも、ナナミも、ハルも、一年の子も、コトネも。また、みんなに元気な顔をみせてよ、ね…?

月が雲に隠れて辺りがやや暗くなる。ユウナは顔をあげた。ふと、校舎に目が行く。

一階の職員室…… は、灯りが付いててもおかしくは、ない。問題は………
ユウナはぐっと目を見開いた。校舎の最上階… 屋上の、踊り場。

灯りが付いていたのだ。
明らかにおかしい。黄色っぽいオレンジ色の光り。

よく見ようと目を凝らそうとした時、

「………ユウナ。」
親友のミサキの静かな声が聞こえたのは。