「…………コトネが…。」
そう言いながら私に歩み寄って来る親友のユウナは、フラフラしていて亡霊みたいだった。

「…ま、さか………。 コトネも?」
こわごわ聞くと、ユウナは力無く頷いた。

「………誰から聞いたの…?」
「コトネの彼氏のソータから。」
「…………ソータは?」
「気分が悪いって、保健室に…。」
それを聞いて、私は椅子から立ち上がった。椅子が押されて後ろの人の机に当たって、ガコンと小さな音がした。

「…………ユウナ、保健室 行くよ。」
「………! ちょっとミサキぃ待ってよ~。」
私は教室を出て右折する。ユウナは小走りで教室を出てきた。

「…ミサキ、ソータに何聞くの?」
「まず、ソータが何で知ってんのか聞く。それから、誰かに教えてもらったんなら、その人に聞きに行く。」
「わかった。情報の元を探すんでしょ?」
「そーゆーこと。」
口角を少し上げてのユウナを見る。



そうこうしていると、あっと言う間に保健室に着いた。

「失礼しまーす………。」
ノックしてから、静かにドアを開けた。

「ソータ………? だいじょーぶ?」
ユウナは明るい声で言った。が、返信はない。

「…………開けるよ…?」
私は薄い水色のカーテンを引いた。

「ソータぁ? コトネじゃなくて ごめん、ね…………。」
ユウナの言葉は尻窄みになってしまっていた。
………ソータはベッドの上でうずくまっていた。それも、真っ青な顔をして、小刻みに震えていた。

「…………ごめん、ソータ。ちょっと良い?」
ソータは震えながらも頷いた。

「…コトネとは、昨日 連絡とった?」
ソータは首を振る。

「………、……………。」
「そ、そうなの!? マジで!?」
ユウナの言葉に、ソータは頷く。

「ユウナ? どうかした?」
「う、うん。ソータ、昨日、コトネと夜遅くにここに居たんだって。」
「ここって、学校? この?」
「その他にある?」
「……………ないね。確かに。」
二人は顔を見合わせた。

「ソータ、ありがと。コトネは、きっと、戻って来るから。」
ソータは顔を上げ、二人を見つめた。
ミサキは、力強く頷き、ユウナは元気に笑った。
ソータは、安心した様に、困った様に、複雑な表情で笑った。

「失礼しましたー。」
保健室を出ると、ミサキが、

「ユウナ。見えてきたよ。事件の全貌が、さ…。」
「言いたい事はわかるよ? ミサキ。」
「……………その勘に任せるよ。」
「うん。九時ね。」
「……うん。大丈夫そうだね。」
二人は、ニコリともせず、言った。笑うより、むしろ、いつも明るいユウキでさえ 鋭い目付きだった。