「コトネ~? どこに居んの?」

今日は、珍しく男子生徒の声が放課後の学校に響く。

「あ、ごめんねぇ。今行くよ、ソータ。」
……男子生徒だけではないみたいだが。

「もー。どこ行ってたんだよ。心配したんだぜ?」
「だーかーらぁ。ごめんって言ってるじゃん。」
「謝らなくって良いよ。怒ってる訳じゃないんだし。」
「ふーん。なら良かった。」
二人は手を繋いで薄暗い廊下を歩き出した。


『…ねぇ、お姉ちゃん♪』
どこからともなく聞こえる、明るい声。

「……ちょ、ちょっと~。ふざけないでよ~?」
「こ、コトネこそ…。 驚かせるなよ。」

「…ぇ………?」
「…は………?」
二人は顔を見合わせた。

『ちょっと~。お姉ちゃぁん。遊ぼ~?』
甘える様な、かわいい声が聞こえてくるが、二人にとっては、悪魔がささやいている様だった。

「…は、早く帰ろっ? もう、忘れ物も持って来し…。」
「あ、あぁ。早く行こーぜ?」
男子生徒はそう言いながら、女子生徒の手を引いた。しかし、女子生徒は動こうとはしない。

「おい。早く行くぞ。」
男子生徒がそう言った。

「…………う、ごけないの…。」
「は…?」
「…足が、動かないの…。」
「んなバカな…。 ほら、行くぞ。」
男子生徒は尚も 女子生徒の手を強く引いている。

『なーにしてるの? お姉ちゃん。』
次は、しっかりと、間近で聞こえた気がした。

「早く逃げねぇと ヤベェって!!」
「わかって、る…………!」
懸命に足を動かそうとしている女子生徒だが、何故か動けない。属に言う『金縛り』、とか言う類いの物だろう。

『…あ、お姉ちゃん、見つけた!』
幼い少女の声が直ぐ側で聞こえる。

「イ、ヤ………… 来ないで…………。」
「…………ま、さか………。」
男子生徒は思わず後退りした。勢い余って尻餅まで着いている。

「キ、キャアアアァァァァァ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴の二重奏が暗い廊下に響き渡る。

『…あれぇ? 気絶しちゃった~?』
少女の声が楽しそうに笑う。
男子生徒は、ただ、震えていた。まるで、この世の物とは思えない不気味な物を見ているかの様に。

『あぁ、お兄ちゃんは帰っていーよ。ごめんね、おどろかせちゃって。』
男子生徒は震えながら、勢い良く頭を上下に振ると、やがて立ち上がり、震える足で歩き出した。後ろから聞こえた、

『お姉ちゃんの胴体、も~らった♪』
その声は、おもちゃを目の前にした少女の様な声だった。