今日は入学式。

普通の素直でかわいい女の子だったらワクワクやドキドキを抱えてるんだろうなと思いながら

平常心で身支度をすませる。

ただウォークマンだけは慎重にイヤフォンをくるっとして、ポッケに滑り込ませる。

さらに上からポンっと存在を確認して食卓へむかう。

誰もいない。

食パンを焼いてお気に入りのサツマイモジャムを取り出して塗る。


…それだけでいい。さくっとイイ音を奏でながら、いつものように自分に言い聞かせる。


「いってきます」の声は誰もいない家に響きわたり地響きのように感じた。

外はぶわっと春の匂いがする。

つい此の間まで冬と春の匂いが半分こしていたのに。少しさみしい。


入学式に向かう道には、同じ高校にむかってるであろう人の群れ。
両親を連れてピカピカな制服を身にまとって、頬を紅潮させながら歩く人。


小夏はあまりそちら側に目を当てないようにしながら、ポッケに手を伸ばす。

ウォークマンを取り出して

イヤフォンを耳にとりつける。


それだけなのに頭の中ではすでにあの曲が再生されていた。