僕はなんとなく、もやもやして、兄貴と顔を合わせる気にならず、そのままカラオケに直行した。

場所は駅前のカラオケ店舗。
バイトしてるからスタッフサービスで10%引きだから、お得だ。

受付で名前を書いていると、


「裕?」


後ろから、聞きなれた声が響いた。
振り返るとドリンクグラスを持った荻野が立っていた。


「荻野。楽器の練習?」

「うん、そう。」


僕は手元の名簿に書きかけていた“永”を二重線で消した。

「一緒にいい?」

「いいけど……裕はいいの?」


ああそうか、こいつ、春華のこと気にしてんだ。

そうだよね、普通彼女持ちの男が幼馴染みとはいえ、女子とふたりっきりはまずいよね。


「うん。色々あって。後で話すよ。」