それを知った上で、彼女の言葉尻に乗った。


だって、そうすればこうなること…つまり春華と別れるだろうってこと分かってたし。


兄貴が振られたってことは、
僕が彼女の彼氏ではいられないってこと。

兄貴はーーー僕にとって、たった一人の家族だった。


仕事で家に居ない両親。
息子の誕生日を忘れるような母親。
キャッチボールなんか一度もしてくれなかった父親。


そんな家庭環境で僕みたいな奴がグレなかったのは、多分、兄貴のお陰。



朝ごはんを毎日作ってくれて。
小学校の遠足の日はお弁当もつくってくれた。


家に帰ると“おかえり”って言ってくれる、大事な、家族だった。


1番、大事なやつだった。
口では絶対、言わないけど。

だから、僕は……春華を奪うような真似は出来ない。


それに、どうして、陽じゃなくて、僕なの?


きっと、春華の一時の気の迷いだ。

そんなことで、兄貴を傷つけなくない。



ブラコン、って笑われるかもしれないけど、兄貴にはすごく感謝している。