私は坂ノ上日向子。高校二年生。
趣味は……化粧をがんばって、私服も大人っぽくして、高校生に見られないように自分を着飾ること。
我ながら、20歳くらいには見えるんじゃないかと思ってる。
日曜日には気合いを入れて電車に乗って、知らない街で降りて、なんとなくカフェに入ってみたり、ショッピングしてみたりする。
「今日はお仕事お休みですかー?」
「はい、もう今週は働きすぎちゃって疲れましたよー」
こんな風にショップの店員さんから社会人に見てもらえるのが何より嬉しい!
でも、学校に行ってる時の私は普通の高校生。
友達とバカなことやって、笑って、たまに喧嘩もする。
子供っぽいなぁって思うけど、やっぱりどっちの私も私なんだよね。
「ひなー、私彼氏できたの!」
「おぉぉ、おめでとう!前言ってた好きな人と付き合えたの?」
「そう!私から告白したんだけど、オッケーしてもらえた!」
この子は加奈。私の一番の親友。
はしゃいでぴょんぴょんと跳び跳ねる姿は愛らしく、こんな女の子を彼女に出来る男は幸せだなぁと思った。
でも、加奈に彼氏ができたのね。
ちょっと寂しいし、焦るかも。
「ひなは、気になってる人いないのー?」
「私は……」
言いかけて、とまってしまった。
気になる人はいる。
でも、話したこともない。
日曜日の午前10時の電車、いつも同じ車両に乗っているあの男の子。
同じ高校の制服を着ているけれど、学校で見かけたことはない。
こっちは私服だし、相手は私が同じ高校だと思ってもいないだろう。
彼はいつもドアの横に立ち難しそうな本を読んでいる。
伏せられた目から伸びる長いまつ毛が陽の光できらきらして綺麗で。
彼に会うために私も日曜日の10時に同じ車両に乗るのだった。
「私は……今はいないかな」
「そっかぁ、気になる人できたら教えてね!協力するから!」
加奈に嘘をついてしまったけれど、私はこくんと頷くことしかできない。
「次、情報の授業か~だるいなー」
「秋野の授業は寝られるから好きだわー」
廊下からことさら大きく響いてくる声が、私の頭をがんがんとゆらした。