祥花は寂しそうに言った。


「たった二人きりの姉弟なのに。私は奏多をちゃんと理解出来てない。奏多は私の事、ちゃんと理解出来てるのに…」


 祥花は膝の間に顔を埋めた。

 奏多は溜め息をつき、本をポケットにしまう。


「それが、最近妙に落ち込んでる理由か?」

「……気づいてたの?」

「単純だからな、お前」

「済みませんね。単純で」


 嫌味っぽく呟くと、祥花は更に顔を深く埋めた。

 弟である奏多に甘く見られて悔しくないはずがない。


「いくら姉弟でも、知らない事があるのは当然だろ」

「それでも。何でも知っていたいの。ただの姉弟じゃなくて、双子なんだから」

「………」

「ずるいよ、奏多ばっかり私の事知ってて」

「祥花」

「私だって分かりたいよ! じゃなきゃ助けてあげらんないよ…」


 ドクンと胸が大きく高鳴ったのを、奏多は感じた。

 そっと胸を押さえる。


(何だ、今の……)


 よく分からない高鳴りに、奏多は戸惑う。

 今までになかった事だ。どこか悪いのだろうかとふと思う。


「奏多。私、奏多が好きだよ。だから困ってる時は力になりたい。そう思うのって迷惑?」

「そんな事は…」

「じゃあ、好きな人が出来た時くらい教えてよね」


 祥花にまっすぐに見つめられ、奏多は深い溜め息をついた。

 純粋無垢な彼女には敵わない。


「そう言うんなら、お前もちゃんと話せよ。どんな些細な事でもな」

「うん」


 心なしか元気を取り戻した祥花は、すくっと立ち上がった。


「戻ろ。お父さんが待ってる」

「ああ」


 奏多も立ち上がり、木陰から出た。


 ──歳を重ねてゆく内に広がる二人の距離。互いの知らない事が増えてゆく。

 いつまでも変わらずにあるようにと願うは、愚かだろうか。


 それぞれの変化を残し、彩られた葉は一枚、また一枚と散っていった。