「奏多、奏多!」


 祥花は一人歩く奏多に駆け寄る。


「綺麗だねぇ、桜」

「そうだな」

「そんな辛気臭い顔しないで楽しもうよー、お花見!」

「充分楽しんだ」

「……あっそ」


 口を尖らせ、つんとそっぽ向いた。

 今回の里田の一件で、前より近くなったように感じていた祥花は、前とあまり変わらない態度に拗ねる。

 あんな風に抱き締めてくれたり、汗を流しながら助けに来てくれたりした奏多の姿にどれだけ感動したか。奏多には分からないだろう。

 そう思うと尚更ムカムカして腹立たしくなって来た祥花は、桜を見上げて気分を落ち着かせた。

 今日はせっかくのお花見。奏多の態度が気に障ったくらいで台無しにしたくはない。


 美月達の所に行こうとした祥花だったが、ふと思う事があり、留まった。

 ちらりと奏多を見遣る。相変わらずの無表情。

 祥花は言おうか迷ったが、言う事にした。親しき仲にも礼儀あり、だ。


「奏多」

「ん」

「この前はありがとう」

「……別に」

「ほんとにありがとう。怖かったけど、奏多が話を聞いてくれたから……怒ってくれたから、頑張れた」


 奏多は祥花を見る。すると、目が合った。

 まっすぐで、母によく似た優しい瞳。


「奏多と双子で良かった」

「…………」

「ずっと一緒にいようね」


 爽やかに笑って、祥花は美月や達樹の方へ行った。奏多は呆然と祥花の後ろ姿を見つめる。


 今の言葉はどういう意味なのだろうかと、真剣に考える。


 ずっと一緒に──いられる訳がない。自分達は姉弟。いずれは互いに違う相手を見つけ、その人と共に歩んでいくのだ。

 姉弟としている事は出来たとしても、ずっと一緒にいる事は出来ない。分かっているはずだ。


 自分達はもう、無知な子どもではないのだから。


“ずっと一緒にいようね”


 祥花のそんな一言が、奏多の耳から離れなかった。