未来ーサキーの見えない明日までも。

「よしよし、そこまでだ。サヤ、諦めろ。奏多には勝てん」

「お父さぁん!」


 ハハハと笑う祥多を睨みつけ、拗ねたように口を噛むと、


「もういい!」


 祥花はバタバタと階段を上って行った。祥多は尚も笑い続ける。


「やー、面白い。花音そっくりだなぁ。サヤ」

「……悪趣味だな、父さん」

「何とでも言え」


 暫く笑っていたが、祥多はふと笑みを引っ込めた。急に真顔になる。

 奏多は怪訝そうに祥多を見た。


「サヤ、何かあったのか?」


 奏多は大きく目を見開き、驚きを露にした。


「ここ一週間、くらい。やけに明るい」


 さすが父親。何でもお見通しというわけだ。しかもそれが愛娘になると殊更。


「もう解決した」

「本当か?」

「……初めて頼って来た。母さんが死んでから初めて俺に涙を見せたよ、祥花」

「大丈夫なんだな?」

「訊かないの、理由」

「サヤは俺じゃなくお前を頼ったんだ。俺にあまり知られたくないんだろ」


 ──さすが父親。としか言いようがない。


「大丈夫だと思う。まだ少し時間はかかると思うけど」

「そうか。ならいい」


 優しく微笑み、祥多は奏多の頭を撫でる。


「ありがとな、奏多。お前も何かあったら俺やサヤを頼るんだぞ」

「……父さん」

「ん?」

「祥花。俺が思っているほど子どもじゃなかった」

「そうか」

「俺より一歩先を歩いてる」

「そんなもんだよ。女は男より心の成長が早い。花音も俺よりずっと大人だったしな」


 遠い目をする。母の事を思い出しているのだとすぐに分かる。


(そうだ。人を好きになるっていうのはこういう事だ)


 相手を慈しみ、思いやる心がなければ。奏多はそう思う。


「変な事訊くけど」

「おっ、怖ぇな。奏多の変な事って想像つかねぇ。まぁ、答えられる範囲なら」

「母さんに乱暴したいって思った事あった?」


 奏多の口から出たとは思えない質問に、祥多は唖然とする。