未来ーサキーの見えない明日までも。

「どうした、奏多。予定でもあるのか?」

「別に」

「何か持って行くか。奏多、父さんと何か作ろう」

「一人で作るから」


 あっさりと返され、祥多は若干寂しさを覚える。同時に、花音のようにはいかないなと思う。

 花音はいつも奏多に気をかけ、いつの間にか一歩引いている奏多を輪の中に入れようとしていた。

 一人で何もかもを抱え込むような人間にはしたくないと言って。


 祥花にもそういうところがあるが、祥花の方は人と関わる事が上手な分、本当に苦しい時は誰かが助けてくれる。

 しかし、奏多は人と関わる事が下手で苦手な分、本当に苦しい時も一人きりになってしまう。


 花音の言葉を聞き、彼女の死後、祥多は出来るだけ奏多に気をかけるようにしている。が、どうもうまくいっていない気がする。


「ちょっとお父さん!」

「ん?」


 祥花が口を尖らせ、祥多と奏多を見据えている。


「どーして女の私じゃなく、男の奏多に言うの!」

「何でって……いつもキッチンに入ってるの、奏多だろ」

「ゔっ。私だって料理くらい出来るよ!」


 女としてのプライドなのか何なのか、父に切実に訴える祥花に奏多が言う。


「お前はキッチンに入るな。要領悪いから洗い物が増える上に料理に時間が大幅にかかる」

「かっ、奏多まで!」

「取りたい物があるなら取ってやる。キッチンには入るな」

「私は子どもじゃなぁぁぁいっ!」


 子ども達のやり取りを傍観していた祥多は、目をしばたたかせていた。

 奏多が単語じゃなく、長々と話している。これには祥多も本当に驚いた。

 最近まで彼は、必要最低限の事しか話さない無口な方だったというのに。どういう心境の変化だろうか。


「大体ねっ! 私、姉なんだよ?!」

「たった10分の差だろ。姉貴面すんな。……面倒臭がってやらないくせに」

「ぅぐっ」


 面白いものを見るように笑っていた祥多は、内心ほっとしていた。祥花も奏多もちゃんと成長している。