未来ーサキーの見えない明日までも。

「行くぞ」


 奏多は里田に背を向け、鍵を開けて出て行った。祥花はその背中を追いかける為、会釈する。


 音楽教官室から出ると、奏多は窓の外を眺めていた。そっと近寄り、肩を並べる。


「どうして許した」


 冷めた声で、苦虫を噛んだように奏多は祥花に問う。祥花は奏多の横顔を見つめ、それからまた窓の外へ目を遣った。


「好きだった人だから」

「そんな理由でか」

「奏多は人を好きになった事ある?」


 奏多は祥花の問いを鼻で笑った。


「人を狂わせるのが恋なら、下らない」


 吐き捨てるように言った奏多に、祥花は寂しそうな目を向けた。


「人を好きになった事がないからそう言えるんだよ」

「冗談じゃない。俺は恋愛なんかしない」

「バカだね、奏多。恋愛はするものじゃなくて、いつの間にかしてるものなんだよ」


 奏多は怪訝そうに祥花を見る。祥花は優しく微笑んだ。


「いつか分かる日が来るよ。奏多にも」


 ──それはまるで、魔法にかけるような言葉だった。















 その日、時枝家に一通の招待状が届いた。

 宛名は、時枝家の皆々様。差出人は花園直樹。

 切手もなく、住所も書かれていないところを見ると直接投函されたようだ。


「来たな、毎年恒例お花見パーティー」


 祥多が笑いながら中から招待状を出す。


『時枝家の皆々様を、花園家主催・お花見パーティーへご招待します。
 4月10日(土) AM10:00~
 花園宅、桜木公園にて。』


 花園直樹とは、祥多と花音の幼なじみで、同じ町内に住んでいる。三人と友人だった美香子と結婚し、高校一年生になる娘の美月と幼稚園児になる息子の達樹がいる。

 家族ぐるみの付き合いで、祥多が出張の時、小学生だった祥花と奏多は花園家に預けられていた。祥花と奏多にとっての美香子は母親代わりのようなものだ。


「お父さんは大丈夫なの?」

「ああ。俺に合わせたんだろうよ。今月の日程、訊かれたしな」

「良かった。楽しみだね!」

「そうだな」


 にこにこしている二人の隣で、奏多は一人、溜め息を吐く。