未来ーサキーの見えない明日までも。

 それはどんなに彼女を深く傷つけただろう。

 考えただけで胸が締めつけられた。


「……男の人が嫌いになりそうだった」


 無理やり体を触られれば、多少なりとも男に嫌悪感を抱くのは当然の事だ。祥花はおかしくない。


「でも、お父さんも奏多も……優しかったから。嫌いにならずに済んだ」


 傷ついても尚、笑おうとする祥花が痛ましかった。同じように傷を負う事が出来ない事が歯痒かった。


「俺に考えがある」

「え……?」

「お前は部活を続けられる。里田もちょっかいをかけてこない上に、もちろん高校も行ける」

「ほんとに?」

「ああ。明日の入学式の演奏、頑張れよ。入学式が終わるまでは里田を避けろ」

「大丈夫…なの?」

「当たり前だ。お前は悪くないんだからな」


 守らなければならない。たった一人の双子の姉。

 何より、母と約束したのだ。

 どんな手を使ってでも祥花を守る。その義務が、自分にはある。


 奏多は明日の事を考え始めた。















 言われた通りに里田を避け、入学式を終えた祥花は里田に呼ばれた。

 片づけが終わったらすぐ音楽教官室に来るように、と。


 祥花はそれを聞き、すぐさま奏多を捜した。この事を相談出来るのは奏多しかいない。

 奏多を捜して体育館を彷徨っていると、突然、腕を掴まれた。祥花は驚いて振り返る。


「片づけ、終わってるじゃないか。祥花」


 祥花の目が大きく見開かれる。恐怖で怯える祥花の腕を放し、ついて来るように言い、歩き出した。

 祥花は慌てて体育館を見回す。が、奏多は見つからない。


(奏多……っ)


 このままではまた、あのような事をされてしまう。そう考えただけで身の毛が弥立つ。

 不意に視線を戻せば、射るように祥花を見つめる里田。


 祥花は唇を噛み締め、助けを求める事を諦めた。里田に怪しまれて余計エスカレートされたらと考えると、諦めた方が良いように思えたのだ。


 祥花は意を決して、里田の後について行った。