未来ーサキーの見えない明日までも。

「ごめん。気づいてやれなかった」

「奏多は悪くない!」

「祥花。お前よく一週間も耐えたな。凄い頑張ったんだな」


 背中を擦りながら労ってやると、祥花は溜め込んでいたものを吐き出すように泣いた。奏多はその間、ずっと抱き締めてやった。


 里田をどうしてやろうかと考えを巡らしながら。


 女子生徒に猥褻行為をはたらいたと訴えたところで、祥花の言う通り証拠不充分で信じてもらえないのが落ちだ。

 一番手っ取り早い方法といえば、女子生徒に猥褻行為をはたらいている所を写真に収める事。しかし、祥花にこれ以上怖い思いはさせられない。

 考えれば考えるほど、分からなくなっていった。子どもじゃ手に負えない。


「これからお前どうするんだ」

「辞める…」

「けど、何の解決にもならない。……里田は祥花以外にも手を出しているかもしれない」

「そんなっ!」

「推測だから本気で取るな」

「……っ」

「はぁ…。最低だな、里田」


 里田はまだ30を過ぎたくらいの男で、爽やかな印象から、生徒から人気がある。

 奏多自身、音楽の教え方については感心していた。


 祥花は奏多から離れる。そして俯いた。

 奏多が気遣うように祥花を見つめる。


「尊敬……してた」

「里田をか」

「私にフルートを教えてくれたの、里田先生だった。良い音が出なかったり、うまく吹けなかったりした時、励ましてくれたのは里田先生だった」


 優しくされた分、ひどい事をされたショックが大きかったのだろう。

 奏多は祥花の肩を擦ってやる。


 その次の瞬間、耳を疑った。


「……好き、だったの」

「?!」

「ずっとずっと好きだったの。吹奏楽部に入った時から、ずっと…っ」


 鈍器で殴られたような衝撃だった。


(嘘だろ……祥花が里田を……?)


 目眩がした。驚いたどころじゃない。

 祥花が教師に好意を寄せていたという事だけでなく、その教師から“猥褻行為をされた”。