未来ーサキーの見えない明日までも。

「一週間前、顧問の里田先生に急に呼ばれた。大事な話があるからって」

「ん」

「現部長が辞めたいって言うから、お前やらないかって言われて…」

「なるのか?」


 祥花は大きく首を振った。


「無理だって断った! そしたら先生、そうかって言って……、太股、触って、来て」

「?!」

「私怖くて逃げられなくてっ……そしたら、胸、まで触られてっ……ど、したらいいか分かんなくて」


 震えた声で、今にも泣き出しそうに事情を話す祥花。奏多は耳を疑った。

 セクハラの域を超えている。明らかな猥褻行為。


「突き飛ばして、逃げよ…としたら、先生が、バラしたら高校に行けないと思え、て…っ」


 堪えきれなくなったのか、とうとう祥花は涙を零した。


「誰にも、言えなくて…っ。証拠もない、から言ってもどうせ、信じてもら…えない…!」


 顔を覆い、声を押し殺して泣く祥花。奏多は思わず手を伸ばした。

 胸に引き寄せ、震える祥花を力強い抱き締めてやる。


「祥花、お前もっと早く言えよ…!」


 滅多に感情を面に出さない奏多が、怒りを露にして言った。祥花は泣きながら奏多にしがみつく。


「だっ、て……心配かけたくなかっ…」

「バカ野郎っ!! ヘタしたら襲われてたかもしれないんだぞ?!」

「うっ……っく、ゔぅ」

「頼むから、そんな事一人で抱えんなよ。口に出さないと助けてやれないだろ」

「奏多。奏多…っ。怖かっ……怖かったっ」

「当たり前だろ。そんな事されて怖くない奴がいるか」


 母の死以来、初めて奏多を頼り、涙を見せた祥花を愛しいと思った。


 今、改めて確認する。奏多は、強がって頼ろうとしない祥花に腹を立てていただけなのだ。例えどんなに些細な事でも、頼って欲しかったのだ。


 実に七年振りに頼られ涙を見せられ、実感する。

 まだまだ子どもだと認めざるを得ない。駄々をこねて冷たくあしらっていたのだから。