未来ーサキーの見えない明日までも。

 奏多は祥花にオレンジジュースの入ったマグカップを手渡すと、お茶の入った自分のマグカップを持って二階へ上がった。


「お父さん、ゆっくり休んでね」

「ああ。ありがとう、サヤ」


 にっこりと笑い、祥花も奏多の後について二階へ上がる。


 二階の右奥の部屋が、祥花と奏多の子ども部屋。

 中は広く、二人分の学習机とベッドが左右に一つずつある。向かって右は祥花、左は奏多の物だ。

 元は二部屋だったのを一部屋に改築した為に、この広さ。せっかく双子なのだから、部屋も一緒にという花音の要望で改築された。


 着替える時の為に、真ん中には青のカーテンが備えつけられている。それと、折り畳み式のテーブル。一緒に勉強をする時などに使われる。

 奏多はそれを中央に出した。それから祥花に座るよう指示する。


 浮かない表情で、祥花は奏多の向かい側に座った。そしてオレンジジュースを啜る。


 静かな部屋の中で二人は向かい合い、渇いた喉を潤した。


 一頻りそうやっていると、奏多がマグカップをテーブルに置いた。祥花が顔を上げると、まっすぐな奏多の目が合い、思わず俯いた。

 そんな祥花の様子がおかしく、奏多はますます怪訝そうに祥花を見つめる。


「何があった」


 強く問い詰めるでもなく、出来るだけ優しく声をかけた。すると祥花は少しだけ肩を震わせる。


「吹奏楽部で、何かあったんだろ」


 祥花は黙ったまま、何も答えない。


「一週間前から、休みだって言って行ってなかったな。あれ嘘だろ」


 つらつらと言葉を並べ、祥花の動向を探るが、何かを言おうとも動こうともしない。黙り込んだきりだ。


(おかしすぎる。今までにこんな事はなかった)


 じっと見つめていると、言おうか言わないでおこうか迷っているように見受けられた。

 奏多は頬杖をつき、ぽんと祥花の頭を撫でる。


「安心しろ。口外はしない。父さんにもな」


 その言葉に安心したのか、祥花はぽつりぽつりと話し始めた。