「綺麗のベクトルが違う!」
ベシッと琥珀の背中を叩く。
「っ痛いぞ」
そうそう、感覚は人間と同じらしい。
「いいではないか、綺麗だろう」
「綺麗だけど、普段着じゃないでしょ?」
本当にどうしてドレス専門店なんかに連れてきたのか。
「そうだが……こういう格好をした凪も見てみたいと思ったのだ」
「残念だけど、一生無いと思う」
何しろ着ていく場面が思い浮かばない。
バイト先は泥臭い工場だし。
人付き合いだってないし。
「む……残念だ…」
拗ねたように唇をとがらせる琥珀を横目にたしなめつつ、
それでも、ついお店のショーウィンドウなや飾られたドレスに目が向いてしまう。
ー…純白のドレスだ。
すごく綺麗。
一度でいいから、こんなドレス、着てみたいかもしれない。
……でも、”ウェンディング“か……。
今のところ、自分には一番縁のない単語だな……。
「やはり、興味があるのか?」
いつの間にか琥珀が、私の隣に並んで同じウェンディングドレスを見つめていた。
「へっ?興味って?」
「結婚のことだ」
「いやーー…興味もなにも……自分には無縁すぎて特になにも思わないかな。
あ、ドレスは綺麗だと思うけどさ」
「…そうか」
「何? 何か言いたそう」
「いや……無縁ってわけでもないんじゃないかと思ってな」
「どうして?」
「人間の女性は、大方、最終的に誰かと結婚するものだからな」
「まあ、それはそうだけだ……。例外だってあるでしょ」
「さあ……でも、どうだろうな。凪が例外だとは俺は思わんが」
「何で?だって私、男性の知り合いなんて東くらいしかいないし。結婚するような相手がいないよ」
ー…言っててちょっと切なくなってきた。
同級生の友達にはもう結婚してる子だっているのに……。
…いや、気にしない。気にしない。
「ありえないなんてことは、ありえんのだよ」
「どこかで聞いたような台詞」
「俺はお前がこんなドレスを着ているところが見たいと思うぞ」
「…それもどこかで聞いたような台詞」
「この間のロードショーだ」
「各シーンの名台詞をこんな安っぽい場面で使わないの」
「思ったことを言っただけなのだが……」
「はいはい。とりあえず目の保養はできたから、次いこう次」

