「…はあ……」
そりゃあ…おじいちゃんの研究にはよく付き添っていたから、琥珀の裸にも中身にも見慣れてはいるけど。
……それとこれとは別……なんだよなあ。
自分でも理解しがたい感覚なんだけど。
……まさか照れてる?琥珀相手に……?
…………。
「……ないない」
ーーーーーーーーーーー
「混んでいるな……」
「休日だからね」
「…はぁ…」
深々とため息をつく琥珀に、すれ違う人達が好機の視線を浴びせている。
「うわぁ……今の人めっちゃかっこいい……!!」
「モデル?芸能人?」
「作り物みたいに綺麗だったよね」
…相変わらずの評価だ。
「琥珀のことかっこいいって」
「聞こえていたさ…俺にも…」
「褒められてるのに何でいつもそんなに嫌そうなの?」
「別に嫌ではない…だが、皆の視線が耐えられないのだ。少し疲れてしまう」
ああ、そうか。だから琥珀、いつも出かけるの嫌がるんだなあ。
琥珀の視界がどうなっているかは分からないけれど、きっと他人の視線も敏感な構造になっているのだろう。
「…何かごめん」
「む、何がだ?」
「無理やり連れだしちゃったから……帰ろうか?」
「今来たばかりだというのに何を言ってるんだ。大丈夫だ、凪は気になどしなくていい」
「そう……?でも……」
「いや、その、なんだ…。俺もたまには出かけたいと思っていたし、いいのだ。視線だって、そのうち気にならなくなるしな」
「ならいいけど……」
「それで、何か見たいものでもあるのか?」
「うん!」
ーー……
「服屋?メンズだぞ?」
「うん。琥珀の服を買おうかなって」
「え、俺のを?いらんぞ別に」
「寒がりのくせにいつも薄着でしょ、琥珀」
「いや、耐えられない時はちゃんと着込んでいるぞ」
「お父さんとおじいちゃんのお下がりをね…」
「あぁ。あったかいぞ。」
「あれね……やめてほしいの……」
「む、何故だ?」
「いや……たぶん琥珀には理解しがたい感覚ただよ」
私の中でいつも訳の分からない語呂Tシャツを着ている琥珀が思い浮かぶ。
すれ違え人がふり返るほどの美形が、ダサいセーターを着ている様はなんとなく見るに耐えないのだ……。
「よく分からないが、とにかくいらんからな。お金がもったいない」
「もったいなくない。必要経費よ」
「それなら凪の服を買おう」
「私の? いらないって」
「そんなことはない、俺は凪が綺麗な格好をしてるところ見たいと思うぞ」
「……いつも汚いと思ってたんだ……!」
「なに、言葉のあやだ。
大体、凪。お前はいつも同じ服を着ているだろう?
たまには違った格好している凪が見たいのだ」
「その言葉そっくりそのまま、琥珀に返すよ」
「む?」
「ぶっちゃけて言ってしまえば、おじいちゃん達のダサいセーターを着てる琥珀が見るに耐えないんです」
「な、…なに!?…あれはダサいのか…?」
「果てしなくね」
「凪、いつも俺のことをダサいと思っていたのか」
「わりとね」
「……」
「せっかくカッコいいんだから、もっとビシッ!って決めた感じの格好した琥珀がみたいの」
「……む……だがやっぱり、俺はいい。ダサくてもかまわん。やはり凪の服を買おう 」
「え、っわっ。ちょっと、待ってよ……!」
ー…そりゃあ私だって、お洒落に興味が無いわけじゃない。
綺麗な格好だってしてみたいと思ってはいるけれど……

