「ただいまー」
「あぁ!おかえり凪。今日は遅かったな」
「んー、いろいろとね」
「そうか。では、ご飯を温めてくるから、ちょっと待っていてくれ」
「あっ……」
しまった。琥珀、ご飯作っててくれたんだ。
あぁ、連絡入れておけばよかった……。
「?凪、どうかしたか?」
「う、ううん!何でもない」
まあ、お腹いっぱいだけど……無理やり食べられないことはないし。
「…うむ。もしや外で食べてきたな?」
「はっえ? いや。違うよ?」
「……虹彩が2,3度右にずれたぞ」
「っ……」
「嘘をついたな、凪」
「……はぁ……」
バレバレかぁ……。
そうだよね。琥珀に嘘ついてもバレなかったことなんて、思えば一度もない。
「ごめん……外で食べてきちゃったの」
「やはりそうか。…嘘をつくことなどしなくていいだろう」
「食べれるかなぁって思って」
「食べすぎはよくないぞ」
「……うん、やめとく。あ、でも、明日食べるから捨てちゃだめだよ?」
「な、なに!?それは細菌の増殖が、」
「はいはい大丈夫だから。人間の胃袋はそう柔じゃないっていつも言ってるでしょ?」
「…確かに凪、お前はよく賞味期限切れの商品を食べるわりに平気だが…できればそれはやめてくれ」
「勿体ないことはしないの」
「ーむ。仕方ない。取りあえずご飯を保存してくるぞ」
「うん、ごめんね。せっかく作ってくれたのに、今日食べられなくて」
「いい、気にするな」
ふっと、綺麗な瞳を細めて台所に向かう琥珀はどこからどうみても普通の人間にしか見えない。
さっきみたいに虹彩が~なんてちょっとずれた発言さえしなければ、長年一緒に生活している私ですら、
彼のことをアンドロイドだと忘れかけるときがあるほどだ。
琥珀の人間と違う部分といったら、身体の構造くらいなもんじゃないかと思う。
プラチナブランドの綺麗な髪や紅い瞳は人間のものとは思えないくらい美しいが、
今の時代それくらいおかしくないし
実際は何もかもが人間とは異なっているだろうけど、感情や思考、
行動パターンはほぼ人間のそれと同じだ。
初めて琥珀に会った人で、彼をアンドロイドだと見抜いた人なんて今まで一人もいない。
こんな風だから、研究者の人たちがほしがるのも分からなくはないのだけれど……。
「あ、そういえば琥珀」
「んー?」
「東がね、こっちに帰ってきたの」
「……アズマ?」
琥珀がご飯の保存を終えて、リビングに戻ってくる。
「相川東のことか?」
「そうそう!今日偶然会ったの」
「そうか、それで帰ってくるのが遅かったのだな」
「うん。高級レストランに連れて行かれちゃってさ……」
「お金足りたのか?」
「まあ、ぎりぎりね……。最初は奢ってもらうつもりだったんだけど、結局自分で出したから、もう予想外の出費…」
「奢ってもらえばよかっただろう」
「いや……ーあ、そう。それで、東がね」
「ん?」
「なんと……」
「なんと?」
「ファーストロイド社に就職してたのよ……!!」
「な、なんと。ファーストロイド社にか?本当か?」
「そうそうそう、高級車なんかに乗っちゃてさぁ。給料いくらもらってるんだろ……」
「…ふむ……。ファーストロイド社か…」
「凪」
「ん?」
「東に、俺のことで取り引きを持ちかけられたのではないか?」
「ぅぐぅっ……」
琥珀は妙に勘が鋭い。アンドロイドのはずなのに。
いや、アンドロイドだからなのか?
「その通りです……」
「やはりそうだろうな」
「まさか東まであんなこと言い出すなんて、思わなかったよ……。琥珀のこと、友達だと思ってたんじゃなかったのかな……」
「……東にもいろいろあるのだろう。ファーストロイド社勤めだったら、俺のことを研究対象として見ざるをえないだろうからな」
「……まあね。でも、断固お断り!ビシッと切ってきましたよ!」
「…………」
琥珀は目を伏せながら間をおいた。
「……凪」
「ん?」
「俺のことは気にしなくていいんだぞ?」
「…へ?」
「俺のこと売りたくなったら、売ってもいいのだぞ?凪の好きなようにしてくれてかまわんのだからな?」
「え……ちょっと、何で急にそんなこと言うの?」
「いや……」
琥珀がチラ、と私の手元に目を向ける。つられて私も視線を落とす。
あぁ……アルバイト情報誌。
「お金のこと気にしてるの?」
「気にもする。俺がいるせいで、二人分の生活費がかかるのだ」
「今更じゃない」
「俺を売れば、凪は一生ラクができるのだぞ?」
「…ねえ、立場を入れ替えて考えてみてよ」
「む?」
「琥珀はさ、もし私を売れば一生ラクできるくらいのお金が手にはいるって言われたら、私を売る?」
「まさか!!売るはずがない!」
「それと同じだよ」
「…いや、全然違う、何故なら凪は人間で、俺はアンドロイドだ」
「私、琥珀のことアンドロイドだなんて思ってないよ?」
「な、なに……?」
「というか、人間もかアンドロイドとか関係なく、琥珀のことは家族だと思ってるから」
「…………」
「だから、絶対に売ったりしないの。大事な家族なんだから。売れるわけないでしょう?」
「うむ…まあ、そうだな。家族を売るなど、理論的にも人道的にも問題があるからな」
「理論がどうこうじゃなくて、感情の問題だよ。売りたくないから、売らないの」
「……そうか。…少しなぜか、ホッとした」
「こっちこそ心臓に悪いよ。琥珀がいきなり変なこと言うから」
「すまない。……だが、もし凪の気が変わったらいつでも、」
「はいはいはいはい、ストップ。また話ループするじゃない」
「む、うむ。すまない。もう言わん」
「絶対ね」
「あぁ!おかえり凪。今日は遅かったな」
「んー、いろいろとね」
「そうか。では、ご飯を温めてくるから、ちょっと待っていてくれ」
「あっ……」
しまった。琥珀、ご飯作っててくれたんだ。
あぁ、連絡入れておけばよかった……。
「?凪、どうかしたか?」
「う、ううん!何でもない」
まあ、お腹いっぱいだけど……無理やり食べられないことはないし。
「…うむ。もしや外で食べてきたな?」
「はっえ? いや。違うよ?」
「……虹彩が2,3度右にずれたぞ」
「っ……」
「嘘をついたな、凪」
「……はぁ……」
バレバレかぁ……。
そうだよね。琥珀に嘘ついてもバレなかったことなんて、思えば一度もない。
「ごめん……外で食べてきちゃったの」
「やはりそうか。…嘘をつくことなどしなくていいだろう」
「食べれるかなぁって思って」
「食べすぎはよくないぞ」
「……うん、やめとく。あ、でも、明日食べるから捨てちゃだめだよ?」
「な、なに!?それは細菌の増殖が、」
「はいはい大丈夫だから。人間の胃袋はそう柔じゃないっていつも言ってるでしょ?」
「…確かに凪、お前はよく賞味期限切れの商品を食べるわりに平気だが…できればそれはやめてくれ」
「勿体ないことはしないの」
「ーむ。仕方ない。取りあえずご飯を保存してくるぞ」
「うん、ごめんね。せっかく作ってくれたのに、今日食べられなくて」
「いい、気にするな」
ふっと、綺麗な瞳を細めて台所に向かう琥珀はどこからどうみても普通の人間にしか見えない。
さっきみたいに虹彩が~なんてちょっとずれた発言さえしなければ、長年一緒に生活している私ですら、
彼のことをアンドロイドだと忘れかけるときがあるほどだ。
琥珀の人間と違う部分といったら、身体の構造くらいなもんじゃないかと思う。
プラチナブランドの綺麗な髪や紅い瞳は人間のものとは思えないくらい美しいが、
今の時代それくらいおかしくないし
実際は何もかもが人間とは異なっているだろうけど、感情や思考、
行動パターンはほぼ人間のそれと同じだ。
初めて琥珀に会った人で、彼をアンドロイドだと見抜いた人なんて今まで一人もいない。
こんな風だから、研究者の人たちがほしがるのも分からなくはないのだけれど……。
「あ、そういえば琥珀」
「んー?」
「東がね、こっちに帰ってきたの」
「……アズマ?」
琥珀がご飯の保存を終えて、リビングに戻ってくる。
「相川東のことか?」
「そうそう!今日偶然会ったの」
「そうか、それで帰ってくるのが遅かったのだな」
「うん。高級レストランに連れて行かれちゃってさ……」
「お金足りたのか?」
「まあ、ぎりぎりね……。最初は奢ってもらうつもりだったんだけど、結局自分で出したから、もう予想外の出費…」
「奢ってもらえばよかっただろう」
「いや……ーあ、そう。それで、東がね」
「ん?」
「なんと……」
「なんと?」
「ファーストロイド社に就職してたのよ……!!」
「な、なんと。ファーストロイド社にか?本当か?」
「そうそうそう、高級車なんかに乗っちゃてさぁ。給料いくらもらってるんだろ……」
「…ふむ……。ファーストロイド社か…」
「凪」
「ん?」
「東に、俺のことで取り引きを持ちかけられたのではないか?」
「ぅぐぅっ……」
琥珀は妙に勘が鋭い。アンドロイドのはずなのに。
いや、アンドロイドだからなのか?
「その通りです……」
「やはりそうだろうな」
「まさか東まであんなこと言い出すなんて、思わなかったよ……。琥珀のこと、友達だと思ってたんじゃなかったのかな……」
「……東にもいろいろあるのだろう。ファーストロイド社勤めだったら、俺のことを研究対象として見ざるをえないだろうからな」
「……まあね。でも、断固お断り!ビシッと切ってきましたよ!」
「…………」
琥珀は目を伏せながら間をおいた。
「……凪」
「ん?」
「俺のことは気にしなくていいんだぞ?」
「…へ?」
「俺のこと売りたくなったら、売ってもいいのだぞ?凪の好きなようにしてくれてかまわんのだからな?」
「え……ちょっと、何で急にそんなこと言うの?」
「いや……」
琥珀がチラ、と私の手元に目を向ける。つられて私も視線を落とす。
あぁ……アルバイト情報誌。
「お金のこと気にしてるの?」
「気にもする。俺がいるせいで、二人分の生活費がかかるのだ」
「今更じゃない」
「俺を売れば、凪は一生ラクができるのだぞ?」
「…ねえ、立場を入れ替えて考えてみてよ」
「む?」
「琥珀はさ、もし私を売れば一生ラクできるくらいのお金が手にはいるって言われたら、私を売る?」
「まさか!!売るはずがない!」
「それと同じだよ」
「…いや、全然違う、何故なら凪は人間で、俺はアンドロイドだ」
「私、琥珀のことアンドロイドだなんて思ってないよ?」
「な、なに……?」
「というか、人間もかアンドロイドとか関係なく、琥珀のことは家族だと思ってるから」
「…………」
「だから、絶対に売ったりしないの。大事な家族なんだから。売れるわけないでしょう?」
「うむ…まあ、そうだな。家族を売るなど、理論的にも人道的にも問題があるからな」
「理論がどうこうじゃなくて、感情の問題だよ。売りたくないから、売らないの」
「……そうか。…少しなぜか、ホッとした」
「こっちこそ心臓に悪いよ。琥珀がいきなり変なこと言うから」
「すまない。……だが、もし凪の気が変わったらいつでも、」
「はいはいはいはい、ストップ。また話ループするじゃない」
「む、うむ。すまない。もう言わん」
「絶対ね」