アンドロイドと愛を学ぶ

 
そうしてあわてて列を抜けると。


「三等おめでと」


急に背後からテンシュンの低い声をかけられた。



「うわっ、東……!!」
 

「うわって何だようわって」


「ああ、いや、えっと……」


この間、東が琥珀に関する取引を持ちかけてきたせいか、少し警戒してしまう。

つい庇うように琥珀の前に立つと、
東は肩をすくめた。


「今日はオフだからな。仕事のことは考えてないし、琥珀をどうこうしようとは思ってない」


そう言って琥珀に目を向ける。


「久しぶりだな、琥珀」


「ああ、久しぶりだな!背、伸びたか?3ミリくらい」


「あぁ、2,8ミリ伸びた」


「正確に言えば2,83ミリだがな」


「ああ、そうだな」


……どういうやりとりだろう。


「凪から聞いているぞ。ファーストロイド社に就職したんだろう?」


「うん」


「あめでとう。難しかっただろう」


「そうでもない」


「まぁ…東にしてみれば簡単かもしれんな」


「…………」


「凪から聞いたのだが」


「取引きのことか」


「うむ」


わあ………。いきなりそんな思い切った話しを始めるとは……。

二人とも肝がすわっているというか、明け透けしているというか……。


「さっきもいったけど、今日はオフ。お前のこと研究対象としては見ていない」


「とかなんとか言いながら……隙をねらって琥珀を襲ったりしないでしょうね?」
 

「凪……お前な……」


「心配するな。東は嘘ついていない」

「本当?」


「あぁ。東は凪と比べるとかなり分かりにくいが……嘘をついていことはなんとなくわかるさ」

「それを聞いて安心した……」


「お前、俺をなんだと思ってるわけ」


「だって……あんなこと言われた後じゃ、信用できないでしょ」  

「……まあ、今日はそのつもりはないけど、取り引き自体はまだ諦めてないからな」

「えっ、まだ……!?」

「ああ、同意さえ得られれば、すぐにでも琥珀の中を開く準備はできている」


「ちょっ……ほ、本人を前になんてことを言うのよ……!」

           
「ああ、凪、大丈夫だ。別に気にしていない」


「いや、でも……東、どうしちゃったわけ?東にとって、琥珀は友達でしょ?」
    

「友達……」

「今まで一緒に遊んだこと、何回もあったのに……」

東は琥珀をアンドロイドじゃなく、人間として見ていると思っていた。   

それくらい親しい時期があったのに、どうして急に琥珀のことを研究対象として見るようになってしまったんだろう。

 
「確かに友達ではある」
 
「え……」
 
「でも、琥珀はアンドロイドだ。その事実は変わらない」

「………」
 
「東の言っていることに間違いはないぞ、凪」
 
「でも……」
 
「……やめよう、この話は埒があかない。今は仕事のことを考えるつもりもない」


「うむ、そうだな。凪、今はいったんその話は置いておこう。ひさしぶりに三人そろったのだから、もう少し楽しい話をしようじゃないか」 

「楽しい話…… 」 

「福引き、三等当たったんだろ」
 
「あっ、うん、そうなの。琥珀が当ててくれて」

 
「お前ら目立ちすぎ。遠くから見てたけど、何故か俺が恥ずかしかった」
 

「え、そんなにっ?」


「それはそうだろう、凪。あれだけ大声で騒いでいたからな……俺も少し恥ずかしかったぞ」


「え……嘘……今更恥ずかしくなってきた……」


「ところで三等って何?そんなに良いものだったのか?」 


「ラバーズランドのペアチケットです!」


「……あ……そう」


「うわ……何その微妙な顔…」

「いや、あれだけ大騒ぎしてたから、よほど良いものが当たったのかと」

「そりゃあ高級取りの相川東様からしてみたら、ラバーズランドのチケットなんて大したものじゃないでしょうけどぉー」

「ムカつくな、その言い方」

「ははは、二人ともそれくらいにしておけ。まあ、凪は喜んでるみたいだからな、よかったじゃないか」

「…………」

「だってラバーズランドだよ?もう何年も行ってないよ。……あ、そうだ!」

 
ー…いいことを思いついた。
 
 
「ねえ、今度の休日、三人でラバーズランドに行こうよ!」
 
「え?」

「む?」 



また三人で遊んでるうちに、東の気が変わってくるかもしれない。

琥珀のことを研究対象としてじゃなく、純粋な友達として見てくれるようになるかもしれない。


「ねえ、いいでしょ?私、来週の日曜もバイトお休みだし。東は完全週休二日でしょ?」

「まあ、そうだけど」

「……うむ……」


あ……そっか、琥珀、出かけるの嫌なんだっけ、
ラバーズランドは、今日よりもっと人が多いだろうし……。


「琥珀……やっぱり嫌……?」


「……いや、かまわんよ。せっかくチケットが当たったんだしな、行かなきゃもったいない。」

「無理しなくてもいいよ?どうしても嫌だっていうなら、寂しいけど東と二人で行ってもいいし……」


「……行く。行くからな」


「…………。……というか、もう俺行くことになってるのかよ」


「えっ、だめなの?」


「いいけど……チケットはペアなんだろ?」


「うん。だから東は自腹」


「……は?」


「だって東お金持ちだし」


「お前……いや、もういい……どうせ何言っても無駄だ……」


「やった、決定!じゃあ来週の日曜、ラバーズランドね!」


「あぁ」


「……はあ」