大嫌いなアイツの彼女になりました。







 こんな目立つ人に声かけたくないな……。


 なんて思ってその場で立ち止まっていると、

「あっ!純香ちゃん!」

 どうやらあたしに気付いたらしい望月相馬が、場所も状況も考えず大声であたしの名前を呼んだ。


 肩が小さく揺れる。


 望月相馬が誰かと話しているわけではないけど、近くで望月相馬を見つめながら楽しそうに会話していた女子たちの目も同時にあたしに刺さって、最悪だと口元を引きつらせる。


 いや、それだけじゃない。

 望月相馬の公共の場だというのに周りを気にしない声の大きさで、駅にいる人達が一斉にこちらを向いたのだ。


 正直他人のフリをしてこの場を立ち去りたいけど、そういうわけにもいかず、あたしは望月相馬に笑顔を見せた。




「純香ちゃん!待ってたよーー」


 だけどそんなあたしの気持ちなんてつゆ知らず、望月相馬はハイテンションで手を振りながら駆け寄ってくる。



「ははっ……ごめん。ちゃんと集合時間には着いてたんだけど、声、かけられなくて」

 いつの間にか集合時間から五分が経っていた。

 あたしが声をかけなかった五分だ。



「そっかそっか。なんで声かけなかったのか分かんないけど……まあ、いいや」

 望月相馬はそう言うと、軽く笑った。

 本当、単純思考だなぁ。



「そろそろ電車が出ちゃうよ。行こうか」


「あ、うん……!」


 いつの間に買ったのだろうか。

 望月相馬の手には切符が二枚握られていた。