殴りにかかる男達を避けながら、彼はそう言った。
さっきとは違う、酷く冷たい声で。
胸に刻まれた〝古傷〟が痛む。
そうだ、あの時もそうだった。
「ほら、早く出てこいよ」
彼はそうあたしを呼んだ。
だけど、色々混乱していて中々足が動かない。
「おいっ、店長に言いつけるぞ!」
彼の後ろから、男が言う。
その男を、彼がそちらを見ずに殴った。
見事にその拳は男の顔にクリーンヒット。
「うっ……」
「じゃあ、俺も言っちゃおっかなぁ……ホテルに連れて行こうとしてたって。決まり破るより、悪いんじゃない?」
「……くそっ」
「行こうぜ」
彼の言葉に男達は怯んで、去って行った。
「……大丈夫?」
彼が、あたしに近づいてくる。
あたしは一歩後ろに下がった。
さっきの男達も怖かったけど、正直言うと彼の方が怖い。
たった一瞬。
たった一瞬でもすぐに分かった。
それ程コイツには傷つけられたのだ。
「……?なんで下がるの?」
なんてとぼける彼を、キッと睨む。



