大嫌いなアイツの彼女になりました。







 中川くんはそう言うと、ゆっくりとあたしの顔に自分の顔を近付けてくる。


 少しずつ近付いていく中川くんとあたしの距離に、心臓が不穏な音を立てた。




 ……このままじゃ、キスされる。

 そう思った時には、あたし達の顔の距離は二センチもなかった。





 恐くて、ただただ恐くて、どうしたらいいか分からなくなったあたしの口から、自然と、



「相馬くんっ!」


 っていう言葉が出ていた。










「…………っ」


 ぎゅっと目を瞑る。

 今にも溢れ出てしまいそうな涙を隠すように。


 でも、どれだけの時間目を瞑っていても、唇が温かくなることはなかった。

 それどころか、中川くんの気配すら感じない。





「………?」

 恐る恐る目を開けると、中川くんはもうあたしから退いていて、あたしをじっと見つめていた。

 そして、あたしに手を差し伸べる。



 あたしは遠慮がちに中川くんに手を伸ばす。

 中川くんとあたしの手が重なると、中川くんはグッと引っ張ってあたしを起こしてくれた。