「直樹、なんでお前、止めなかったんだよ」

 口から出た言葉は、それだった。



 直樹は純香ちゃんと隣の席なのだ。


 それに、山口って奴のことを知っているのなら、純香ちゃんが危ない目に遭うかもしれないことだって予想できたはずだ。

 勘の良い直樹なら。


 なのに、どうして止めなかったんだ?

 不思議で仕方なかった。



 直樹は俺の言葉を聞いた瞬間、携帯を机の上に置いて、俺を見上げた。

 直樹の目は、あまりに冷静だった。



「……別に、特に理由はないよ。ただ、俺が首を突っ込むことでもないかと」


 普通だろ?とでも言うかのようにそう言い放った直樹に、俺は驚いた。



「なっ!?お前、純香ちゃんのこと心配じゃねえのかよ」


「……ちょっと心配だね。」


「なら、なんで止めないんだよ!」


「……だから、面倒なことに関わりたくなかったんだよ」


「はあ?」



 直樹は小さくため息を吐いた。

 ここまで、情の無いやつだとは思っていなかった。


 面倒なことってなんだよ。

 確かに、純香ちゃんの彼氏でもない直樹にとっては、どうでも良いことだったのかもしれない。


 けど、いくらなんでも酷過ぎるだろう。