今日なら、卒業式という大義名分の理由で誤魔化せる? ……そんなのいけない。
姿を前にして、絶対に泣きたくなんてない。今までだってそうしていたんだから、最後だという甘えなんかに負けたくないっ。
――
「私、そろそろ帰ります。森野さんも、休憩、終わりでしょう?」
「はい。――卒業、おめでとうございます」
「ありがとうございます。もしお暇などあれば、デパートでの買い物ついでに、チョコレートも買いにいらしてください。サービスします。ここから、そう遠くないんですよ」
「深町さんも、卒業までの読書は終了してしまいましたが、またのご利用、お待ちしていますよ」
僕を訪ねに、とは、言ってくれるわけないか。
「さようなら――」
この言葉を、森野さんに対して声にしたのは初めて。
今日だけだと、決めていた。
本当に最後だと、重みを持たせ、言い聞かせるために。
「――さようなら」
これで終わり。
私はもう、ここへは来ない。



