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受付カウンターでパソコンの画面を眺めていると、視界に誰かの手が飛び込んできた。


「森野さんっ、こんにちはっ!」


「あっ、ああ、香田さんの妹さん。こんにちは」


「もおっ。桜って、名前で呼んでくれていいよって、いっつも言ってるじゃん」


カウンター越しの女の子は、今日は公休の同僚の妹さんだった。中学三年生で、夏休み中、僕の職場でもあるこの図書館に頻繁に通って来ていた。自室にエアコンが無く、宿題がはかどらないと嘆きながら。


本来は、ここより太陽の下を好みそうな、適度な日焼けと、ショートカットがとても似合っている。


読書にでも目覚めてくれたのか、夏休みが終了しても週に一度は通うと宣言していたのが数日前のこと。


いいことだ。来館者が増えたり、継続してくれるのは。


「髪、切ったの?」


「少しだけ。昨日にね」


「サッパリしたね! そんな森野さんに、桜、少しだけお願いあるんだっ」


「何かな?」


髪を切ったそんな僕と、桜ちゃんのお願いに、どんな関係があるのかは分からないけれど――まあ、深い理由はないのだろうと解釈する。


手招きをされ、書架の並ぶ方へついていった。