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「ね、ね、森野さんっ」
書架整理をしていた時のこと。学校帰りの桜ちゃんが、いつの間にか背後に立っていた。
「何かな? 桜ちゃん」
<森野さん、クリスマスはお仕事?>
英語のノート両面を使用して豪勢に書いた質問を、桜ちゃんは投げかけてきた。
作業を続けながら首を縦に振り返事をすると、桜ちゃんはページをめくり、また何かを書き始める。
<イブ? 当日?>
ノートを指差し、両日だと示す。
<そうなんだ。カワイソウだねぇ……>
眉を下げて本気で哀れんでくれる。僕としては、そんなことは思わないのだけれど。
ここは静かであるべき場だから、筆談しようと考えたのか、はたまた思いつきか。桜ちゃんの行動は面白い。
<あとどれくらいで休憩?>
「三十分くらいかな」
べつに、声を出していけないことはないので、小さく答えた。
再度ノートをめくり、桜ちゃんは筆を走らせる。
けれど、その作業は、お姉さんに首根っこを押さえられて中断となった。
この姉妹の関係はとてもタフだ。香田さんに無言の圧で怒られながらも、桜ちゃんは満面の笑みで引きずられていった。



