コトノハの園で



――


「香田さん、この本なんですけど……」


「はい。どれどれ?」


質問先の主は、通ううちに親しくなった職員の香田百合乃さん。私より少しお姉さんで華やか美人。


「――……、あっ、森野さんっ」


「っ!?」


香田さんは、ちょうど通りかかった森野さんを呼び止めた。


「っ……なんですか?」


「うん。これなんですけど――」


わたしは一歩引いて、ふたりのやりとりを観察。


森野さんは、始終血流を塞き止めたような表情で受け答えをしていた。


……体調が、悪いのかな。


心配してたら、私も香田さんに呼ばれた。


「はい」


「うん、分かりました。この本の続きはね――」


説明を受ける間に、森野さんはそっと去っていってしまった。その姿を見送る私の顔があまりにも不安げだったのか、気づき、香田さんが教えてくれた。


「理由なんて知らないけどね」


と、弟を温かく見守る優しき姉みたいに微笑みながら。


年齢でいえば妹なのに、その構図は妙にしっくりきてた。