「……これは……目の前に立っているのは……森野さん、なんですか?」
「何故ですか?」
「だって、こんなに、近くにいるなんて、思わないでしょ?」
お互いに質問ばかり。こんなのも初めて。
「たっ、躊躇っている余裕はないんですっ! それより質問の答えをっ。何故、来てくれなかったんですか?」
ありえない。森野さんがこんなに私を見つめる。
「っ、あんなのっ! お別れの常套句でしょっ。本物にしたいならなんでそっちこそ来ないのよっ!?」
一瞬だけ力が緩んだ瞬間に、私は森野さんの手を振り解き逃げ出した。
こんなに混乱することはなくて、今はただただ、もう少し、離れたかったんだ。
けど、進路を塞がれた私が逃げられる方向はひとつしかなくて、たどり着いた先は書架が並ぶ奥の方。はめ殺しの窓がある行き止まり。
月明かりの方が冴える袋小路で、私の腕をさっきよりも強く掴む森野さんのその手は、とても熱くて、やっぱり震えていて。そして挙動は不審だ。
そんなふうになるんだったら……。



