コトノハの園で





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捨てられた子犬の警戒心を解くみたいに。


でも、それは、どんな方法?







とある図書館で、私は気づかないふりをする。


閉館時刻のこと。


『もう帰ってください』――たった一言なのに、たったそれだけの作業が困難な彼は、それでも仕事だからと葛藤しているんだろう。


空気が張り詰めていくのをひしと感じる。


たった一言だけだよ。


あとは私が受け持つから。


「あのう……、もっ、申し訳ありませんが……」


精一杯の声が私の全身に巡る。


うん。もういいいよ。それに、規則なんだから謝る必要なんてないのに。


「――、はい」


私は返事をして、わざとらしくならないように、辺りの様子に目をやる。そして、外の暗闇に今気づいたみたいに驚く。


「あっ!! すみませんっ、もう閉館ですねっ。急いで出ますからっ」


一瞬だけ、けど、心に残してもらえるような眼差しを彼に向け、私は風の如く図書館を飛び出した。


別に、走る必要はなかたんだけど、こっちだってとても緊張してたんだ。