コトノハの園で



……、


「――深町、菜々です。桜ちゃんとは、お友達です」


菜々ちゃんという人――深町さんが沈黙を破り、自己紹介をしてくれた。


「っ、もっ、森野ですっ。ここの職員ですっ」


「はい。――でも、以前からも知っていました」


「っ、そうでしたかっ」


思わず後ずさってしまった。


……突然話しかけられるのは驚いてしまう。けれど、深町さんには気付かれていないようで。良かった。


「すみませんでした」


「えっ、なっ、何がでしょうかっ?」


「原書を読んでみようかと思って。桜ちゃんに、どれがいいか迷うわっ、て言ったら、任せてっ、て突然……」


「……っ、そうでしたか」


「――森野さん、お詳しそうなので、可能であれば、初心者でも読破できそうなものを幾つか、教えていただけると……あの……嬉しいのですが……」


声が、怯えている?


桜ちゃんよりも身長のある僕が、俯き加減の小さな深町さんの表情など窺えるはずもなく、感じたことが正解なのかを確認することは出来なかった。


逆こそあれど……


……怯えられるなんて、初めてだった。


そんなふうに感じてしまったものだから、僕もこんな様子だったのだろうか、と昔を色々と思い出してしまった。