セルペンテ国よりも後にできたジーア国。元々、ジーア国の国王はセルペンテ国の国王の血縁者だった。
ジーア国ができてから何代かは国民を思う優しい王様達ばかりで、少しずつ発展していく穏やかな国だった。
けれどある時先代の王が早くに亡くなり、第一王子が若くして王へと即位した。
若き王は妻や子供を溺愛するあまり民を蔑ろにし始め、高い税を納めさせ、無理な労働を強いり、妻や子供を喜ばせるために私腹を肥やすことに精を出した。
その悪しき習慣は今の代にまで引き継がれ、国民からしぼり取っては贅沢三昧らしい。
しかも税を納められない人や王族に逆らったりすると更正とうたって強制労働をさせるという、セルペンテ国で過ごしている私にとっては衝撃的な話ばかりだ。
「王妃様がいた頃はもう少しマシだったんだがなぁ……」
「せめて労働期間を短くするようにと進言して下さったりして俺らには天使のような方だったよ……」
「王族の遠縁だったからあまり聞いてはもらえなかったらしいが、それでもありがたかったな」
うんうんと頷き合うみんなに王妃様の話を聞くと、体が弱い方でアガタ様が幼い時に病死したらしい。
そういえばフィオン様も体が弱い方で、ルニコ様は周囲の反対を押しきって結婚。ルーチェ様が生まれた後に徐々に体調が悪化して病気で亡くなったとシン様から聞いている。
生まれつき体が弱く、回復能力が効きにくい体質でどうすることもできなかったとも聞いて思わずシン様の前で泣いてしまった。
それにしても、長い間関係を持っているのにセルペンテ国の国王様はジーア国の内情について何も思わないのだろうか。
ルニコ様は国民思いだと聞いているから、内情を知ったら何かしらの手立てを考えてくれそうなのに……。
考えこむ私を憂いていると思われたようで、横にいた年配の女性が皺の多い手で私の手をギュッと握ってくれた。
「逃がしてやりたいけど海の向こうじゃね……。力になれなくて悪いねぇ……」
「――いいえ。そう思っていただけるだけで嬉しいです。ありがとうございます」
他国の人間なのに思ってくれる。そのことに胸が熱く苦しくなる。
一人の男性が遠くを見つめて目を細めた。
「王族に変わった力を持つ人がいるもんだから俺達はこの国を出られないんだ。向こうの国の国王様が様子を見にきたって国の惨状にはきっと気づいとらん。幻術とやらを使って誤魔化してるらしいからな」