「――ちゃん……! 嬢ちゃん……!」
近くで聞こえる大きな声に少しの煩わしさを感じながら重いまぶたを開いていく。
半眼で体を動かした所であちこちに走る痛みに意識が急激にハッキリとして私は目を大きく開いた。
次第に鮮明になっていく視界には、数人の年配の人が私のほうを心配そうに見ている姿が映る。
「嬢ちゃん大丈夫かい?」
「運ばれてきて丸一日目が覚めんから心配しとったんだよ」
支えてもらいながら上半身を起こすとそこは見知らぬ場所で、まわりにいる人も知らない人ばかり。
荒れた地面が広がり、人の服装はつぎはぎされた作業服の人がほとんどで、農作業をしているような印象を与えられる。
みんな他人のはずの私を心配そうに見てくれて、人柄のよさそうな人ばかりだなと思いながら私は口を開く。
「あの、ここはどこですか?」
「どこってここはジーア国の強制労働場の一つだ。嬢ちゃんメイドさんなのに知らないのかい?」
目を丸くして聞いてくる男の人に私は信じられない気持ちになる。
頭や背中などの痛みの原因を考え、階段から落ちたことを思い出す。そしてアガタ様の冷たい笑みも思い出して背筋が寒い。
とりあえず階段から落ちて助かったことを喜ぶべきか。ジーア国にいることを嘆くべきか。
「ぐったりした嬢ちゃんが運ばれてきた時は驚いたもんだよ。王宮で働くメイドで王様や姫様に楯突く勇者がいたもんだってな!」
がはは、と大声で笑う体格のいいおじさんは私を励まそうとしてくれているのか、熊のような大きな手で私の肩をガシリとつかむ。わずかに痛みが走ったけれど、私は悟られたくなくて笑みを作った。
「――あの、こんな格好で言うのも信じられないかもしれませんが、私はジーア国で働くメイドさんではありません」
目をまん丸にする人達を見ながら、私は自分がセルペンテ国の人間で王宮でお世話になっていたことを説明した。
さすがに違う時代からきたとは言えなかったけれど、ほとんどの人がセルペンテ国から運ばれきたことに驚いているようだ。
「それじゃあ嬢ちゃんは海をこえて運ばれたてきたのか……」
「あんたも運がないな……」
「どういうことですか?」
悲しんでいるような哀れんでいるような表情をする人に問いかけると、みんなが口々にジーア国の実態を話してくれた。