――けれど、シン様が私の両肩をつかみ、やんわりと距離を作った。
「シン様……?」
名前を呼んで見上げると顔を横に向けたシン様がいて表情が読みとれない。
やがてこちらを見たシン様は何かを耐えるように眉を寄せる。
「部屋に戻るんだ」
「え……」
「彼女のことは心配いらない。だからカルは部屋に戻るんだ」
「そんな……っ」
心配いらないってどういうことなの?
アガタ様は私よりも信用できるってこと……?
そう思ったらスッと体の熱が引いていくのを感じ、私はシン様と距離をとった。
「そうですよね……。私なんかよりアガタ様のほうがいいですよね……」
「カル……?」
伸びてくる大きな手を私は体を動かして避ける。
今まで一緒にいた日のことがガラガラと音をたてて崩れていくような感覚に足が震えて涙があふれて。涙を拭うことなく歪んだ視界でシン様を見た後、私は部屋を飛び出した。
「カル!」
背中にシン様の大きな声が聞こえても止まることなく廊下を走る。
今夜中に出て行こう。私はここにいたらいけないんだ――……。
***
走り疲れて廊下をトボトボ歩きながらこの後のことを考える。
王宮から出て身寄りのない状態でどうすれば私は生きていける?
知り合いはシン様一人。クオーレ地区の知り合いだって誰もいない。こちらが一方的に知っている人がいたとしても向こうからしたら知らない人で。
「一人ぼっちだなぁ……」
つぶやいたらよけい実感して泣けてくる。
泣きながら部屋に近づけば閉めたはずの扉が開かれていて背筋がゾクリと震えた。
シン様に伝えることに夢中でその後のことは考えていなかった――。