その笑いがいいものではないことは私でも何となく分かった。
 試験の時に接したリィちゃんやティアさんとは違う。もっと冷たくて鋭いような――。
 私は両手を前のほうで合わせてギュッと握ることで体が震えないように我慢する。
 そうしていると下を向いていた視界にドレスがフワリと映り、耳元にクスリと声が聞こえた。
 私が名前を呼ぼうと顔を上げる前に口が開かれて言葉を放つ。
 小声でも確かに感じた恐怖に涙がにじみ、落ちないように手でこする。
 アガタ様は確かにこう言った。
 「シン様もこの国もみぃんなわたくしとお父様のものよ」と――。
 ――アガタ様の言葉を聞いてから私はもう夕食どころではなくなってしまい、アガタ様が親しげにシン様に話しかける様子をまるで物語を見ているように感じてしまった。
 久しぶりにシン様に会えて嬉しいはずなのに、食事中に時々話しかけてくれたのに、アガタ様の視線を感じることで何も言えずうつむいてしまう。
 テーブルを見つめてひたすら考える。
 アガタ様の言葉が本心だとしたら、このままではセルペンテ国が大変なことになるかもしれないんだ……!
 そう思い、じっとしていたらダメだと自分を奮い立たせて私は夕食に遅れて手をつけ始めた。
 どうにかしてアガタ様に見つからないようにシン様と二人になって話さないといけない。
 元の時代ならルニコ様でもいいかもしれない。けれど、ここにいるルニコ様はシン様のお父さんではないからきっと話を聞いてくれない。
 お父さんやメイさん、リィちゃんにルーチェ様にクレアさん達。次々に王宮にいる人の顔が浮かんでくるけれどここにはみんないない。
 私が今頼れるのはシン様だけなんだ。
 二人の視線を感じながら、私は少し冷めてきた夕食を次々と口に運んでいった。


***


「――よし」

 私は蓄力石のかすかな明かりの中、部屋で一人つぶやいて気合いを入れる。
 アガタ様の就寝の準備を終え、部屋に戻ってもメイド服はそのままにしてソファーに座っていた。
 内心気づかれないように何とかやり過ごし――と言ってもいつもアガタ様におされているからあまり変わらない――どうやってシン様に会おうか考える。
 元の寝室と執務室なら王宮の入り口にたどり着いて向かえば行けるけど同じとは限らない。