朝ご飯は先に食べておいたし、アガタ様に関わること以外はしてもらうわけにはいかないと他の仕事はメイドさんに断られてしまう。
不慣れな私を気遣ってくれているのか未だ警戒されているのか。後者だったら悲しい。
窓から外の下のほうを眺めても荒れた地面があるだけでやっぱり違うんだなと改めて感じて。
だいぶ前に感じる緑にあふれた景色を懐かしく思った。
***
「夕食をアガタ様とシン様と一緒に……?」
夕方より少し前、部屋に呼ばれた私はアガタ様から唐突に提案された。
「ええ。わたくしからのご褒美だと思えばいいわ」
「でも……」
「――なぁに? わたくしに口答えをする気?」
断ろうとするとアガタ様の睨むような鋭い視線が向けられて言葉につまる。
アガタ様は感情の起伏にとても差があるようで、今のようにハッキリとした怒りを向けられるのはどうにも苦手だ。
笑顔で話していたと思ったら一転してイライラした様子を見せたりと接し方に戸惑ってしまう。
「返事は?」と強い口調で聞かれ、私は小さい声で返すのが精一杯だった。
***
夕食は食堂でと言われたので、私はメイド服を着たまま食堂に向かう。
扉を開けて入るとまだ誰もいなくて、私は壁に背を近づけて佇んだ。
シン様に会える。そう思う嬉しい気持ちと前みたいに話せないだろうと思う寂しい気持ち。
元の時代でだってあんな出会いがなかったら、シン様とは話すどころか姿を見ることさえほとんど叶わない人なんだよね……。
そう思うと私って幸せ者なのかもしれない……。
少しの間ボーッとしていると私が入ってきた扉が開かれ、腕を組んだシン様とアガタ様が入ってきた。
「カル……?」
シン様の目が驚いたように開かれて私はとっさにうつむく。
やっぱり私がいたらダメなんじゃないかと一気に心臓の音が速くなる。
アガタ様と仲を深めるなら私がいたら邪魔になる。
シン様は優しいからきっと直接言葉にはしないだろうけど……。
「アガタさん。あなたが彼女を連れてきたのかい?」
「ええ。メイドの仕事に慣れてきたようでしたので、わたくしからほんのご褒美のつもりですわ」
「メイドがわたくし達と共に食事をとれるのは嬉しいでしょう?」とクスクス笑うアガタ様の声が聞こえる。