思わず干し草を食べている馬をじっと見ると、視線に気づいたのか馬が食べるのを止めて私のほうを見てくる。そして私のほうに近づいてきた。
「カルもご飯をあげてみるかい? 店を手伝っていたら馬と触れ合う機会はそんなにないだろう?」
確かにお父さんの言うとおりだ。休みの日以外は朝から夜までお店の手伝いをしているし、時々馬車を見かけても知らない人に声をかけることは難しい。
見かけることが多いのは魚の頭とかをもらいにやってくる野良猫かな。色々な猫がかわるがわるきてそれはそれで可愛いんだけどね。
せっかくだからあげてみたい。お父さんから手で持てるだけの干し草をもらって口に近づける。
――わ、食べてくれた……!
クンクンと匂いをかいだ後、あっという間に干し草を食べてしまった。
私の手から食べてくれたことが嬉しくて思わず涙ぐんでしまう。
「わ……っ」
馬が急に私の顔を舐め始め、その勢いに体がよろけてしまう。転ばないように力を入れて舐められる様子を見てお父さんが声を出して笑い始めた。
「ははっ、どうやら気に入られたみたいだ」
「よかったね」と優しい声色で言うお父さんに私は嬉しくなる。
舐めるのを止めた馬が今度は顔を私の頬にすり寄せてくれたので、そっと顔をなで返させてもらって感触を味わった。
***
休憩を終えて馬車は再び走り続ける。家を出発した時にほぼ真上にあった太陽が空と地の間くらいに移動していた。
私は移動中の馬車の中でそっと胸をなで下ろす。
顔中を舐められた後にベトベトしてることに気づいてどうしようかと焦ったけれど、広場に手洗い場があって本当によかった……。
それから何だか気に入られてしまったみたいで、走っている途中に速度を落として後ろを見ること何度目か。
嫌われるよりもすごく嬉しいけれど、予定より遅れているみたいでお父さんは手綱で指示を出しながら苦笑いを浮かべている。
「余裕を持って王宮に着けるようにしていたけれど、早くて夕方、遅いと夜になりそうだ」
「面談予定は夕方なんだけどね」と言うお父さんに私は体温が下がっていくのを感じる。
「もうすぐ夕方だよ? そんなの間に合いそうにないよ……!」
「着き次第説明すれば分かっていただけるさ」と続ける姿に力が抜けた。

